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『ワインの中の風景_その2』
最初の投稿からだいぶ時間が経ってしまいましたが、ワインとその周辺について紹介するエッセイ第2回です。
今回は「ブラインドテイスティングの楽しみ」について。
ワインを楽しむにあたり、当店も月2回ほど催しているワイン会がありますが、そのような会でたまにブラインドテイスティングを行うことがあります。
ブラインドテイスティングとは、まさに目隠し試飲。
別に本当に目隠しをして試飲するわけではなく、どのようなワインかを提示せずに自分の舌と鼻と目で分析する試みです。
こうなるとなんだか高度で難しい会のように思われるかも知れませんが、あくまで楽しむためのテイスティングであり、ピンポイントでワイン名やヴィンテージを当てるのが目的ではありません。
何よりまず、当たりません。
だって、ものすごく勉強して経験も積んでいる世界のトップソムリエもピタッと当てることはそう無いのですから。
ではなぜブラインドテイスティングをするのか。
それはワインを楽しむ自らの知識と経験欲を刺激し、未知の世界へもう一歩踏み出す一助ともなる、秀逸なゲーム・遊びだからです。
もう23年ほど前になるでしょうか。
私のフランス在住の頃。
ワインにも興味はあったもののまだ右も左も分からない状況。
たまたま知り合った須藤氏に誘われて何となく参加したワイン会。
そこで、まさにブラインドテイスティングの洗礼を受けました。
最初は一体何をやっているのか理解できず、ただ呆気に取られているばかり。
周りの参加者はグラスに注がれたワインの色や香り味わいなど、そのワインの特徴を次々にメモをしています。
そして香りがどうだ味わいがどうだと分析しながら、まだ名前も判明していないワインから感じ取れる様々な事を話しているのです。
何だこの世界は。
こんな世界は到底自分には無理だと思ったものです。
こんなことをしなくても、美味しく楽しく飲めれば良い。
私はただの酒好きだから、こんな辛気臭いことをしてまでワインに溺れなくて良い。
それが最初の感想だったでしょうか。
ただ、人は変わるものです。
そう言う私もその何ヶ月後には自らの拙い経験と知識を駆使して、他の参加者と共にああだこうだと議論をしているのです。
今思えばあまりに幼い知識で、他の参加者は驚かれたことでしょう。
思いっきり違う分析を自信満々に発表して恥ずかしい思いもしました。
これはいまだに頓珍漢な分析をする事も多いので、23年経ってもさほど成長していないのかも知れません。
ではなぜ最初は拒絶反応すらあった私が、ワインの沼にハマり、ワイン会に参加し、挙げ句の果てにワイン会まで催すようになったのでしょう。
そこにはブラインドテイスティングの力があったことは間違いはありません。
これは、上等なゲームであり遊びです。
当てることは目的ではありません。
少しばかり積極的に向き合うだけです。
すると、ワインそのものが遊んでくれるのです。
目の前のグラスのワインと対峙することで、そのワインの容姿や年齢、纏った雰囲気までも情景として浮かび上がってきます。
浮かび上がったイメージを、そこにある他のワインや自らがかつて経験してきたワイン達と比較し、カードのように並べてみる。
様々なカードからテイスティングしたワインのイメージに近いものを見つけ比較してみる。
全く同じものはないけれど次第に様々なカードが増えて、このイメージはこっちだ、そのイメージはそっちだと色々と遊んでくれます。
または自分の出会ってきた風景や人、今まで体験してきた香りや味、はたまた気分や感情までも呼び起こしワインのイメージと重ね合わせてみます。
すると、ワインという世界を超えた情景までも浮かび上がってくるのです。
ただの飲み物であるはずのワインの扉が開き、現実とも夢とも知れない情景の中を自分自身が泳ぎ回っている感覚。
これが気持ちが良く、楽しくて仕方がない。
ブラインドテイスティングはワインの扉を開き世界を広げる、人の知性をも刺激する、とびきりのゲームなのです。
少しでもワインがお好きな方には、お勉強というよりもさらなる楽しみを見つける感覚でブラインドテイスティングを試していただきたいものです。
当店でも、間近ですが文章内でも登場した須藤氏の強烈なワイン会をブラインドテイスティング形式で催します。
テイスティングするワインは文句のつけようのない素晴らしいものばかり。
皆様の至高の楽しみを増やしませんか。
詳細は↓から。
https://lesept.jp/info/5756607
若干名様、お席ご用意できます。